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東北再出発応援日記バックナンバー

北村東北財務局長

 東北財務局長の北村です。
 これから多くの方の声をお聞きし、試行錯誤しながらも我々の役割、我々にできることは何かをたえず考えながら全力で取り組んで参ります。

2013.3.25

 東京電力福島第一原発事故により、福島県では現在も11市町村に避難区域が設定され、立ち入りが制限されています。避難区域は事故直後の2011年4月、福島第一原発から20km圏が警戒区域、放射線量に応じて北西方向の市町村(飯館村、川俣町他)が計画的避難区域に指定されました。その後、放射線量に応じて段階的に住民の帰還を促すため、市町村ごとに「帰還困難区域」、「居住制限区域」、「避難指示解除準備区域」の3区域に再編、あるいはその移行に向けた準備を進めています。
 福島第一原発の北~北西に位置し、避難を余儀なくされた自治体の一つである浪江町は、被災直後の平成23年3月より二本松市に役場を設置しています。約2万1000人いた町民のうち、県外に約6500人、県内には福島市、二本松市、いわき市、郡山市、南相馬市などに分散して約1万4500人が避難しています。馬場有町長のお話では、町民は当初原発から逃れるように、二本松市や福島市方面に向かったが、中通りの厳しい寒さを経験して、浜通りの南相馬市やいわき市に移る人が増えたとのことです。

写真1

 来たる4月1日の同町の区域再編後も同町の面積の約8割は5年以上帰れないと見込まれている「帰還困難区域」に指定されますが、将来の住民の帰還へ向けて、まずは海側の「避難指示解除準備区域」でのインフラの復旧に着手すべく、業者に復旧事業の設計調査の委託をするとともに、南相馬市に宿舎を設置して、上下水道、道路、農地の担当職員20名程にそこから浪江町に通ってもらう予定だそうです。特に、下水道の終末処理施設の被害が甚大で、昭和50年代前半から供用開始した下水管は老朽化も進んでいたため被害が大きいようです。復旧に要する費用は当面は積み上げた剰余金等を取り崩して賄うにしても、東京電力の賠償金を一刻も早く支払ってほしいと語られます。また馬場町長は、食品についてはきちんと検査をしていても県内産食品を敬遠する風潮が特に若い人に見られることに心を痛めておられます。
 住民へのアンケート調査では、4割の人が帰還しないと答えていて、帰還までに要する時間が長くなればなるほど離れていく人は多くなると馬場町長は考えておられるようです。避難している浪江町民と避難先の地元との間のトラブルについては多くを語られませんが、避難先の地元の皆様が複雑な心情にあり、各地の浪江町民が肩身の狭い思いをしているとすれば、やりきれない気持ちがします。二本松市にある浪江町役場に立ち寄っている住民の方々の表情は穏やかに見えましたが、そこだけは他の目を気にしないで済む安心感の裏返しなのかもしれません。
 浪江町ではいわき市や南相馬市の周辺と、二本松市などの中通りに町外コミュニティ(仮の町)の整備を要請する考えのようです。前例のない試みであり難しい課題もありそうですが、一日も早く住民が安心して生活できるコミュニティが確保できるよう祈ります。

写真2

 避難している浪江町民の中には、厳しい状況の中でも事業の再開に挑戦する方々が出てきています。浪江町請戸地区にあった(株)鈴木酒造店は、江戸末期天保年間創業の酒蔵で、その銘柄「磐城壽」は大漁を祝う祝い酒として多くの漁師にも愛されていました。目の前の太平洋からの津波で酒蔵の全てを流され、原発事故により避難を余儀なくされます。
 専務取締役で杜氏でもある鈴木大介氏にお話を伺うことが出来ました。震災後は、福島市、次いで米沢市に避難されていましたが、平成23年4月に山形県酒造組合が福島、宮城、岩手の応援イベントを開催することになり、懇意にしていた方から勧められて参加されます。その縁で山形県工業技術センターから後継者がなく廃業する東洋酒造(長井市)を紹介されたそうです。
 鈴木専務は、震災前から蔵の中の微生物を活かした酵母の研究をしようと決め、平成23年1月に福島県会津若松市にある県の研究機関に磐城壽の酵母を預けたそうなのですが、震災でそのことを忘れていました。その後、避難先の米沢市で検査機関から酵母が残っているとの連絡を受け、「酵母があれば磐城壽は復活できる」との思いから、まずは南会津町の酒蔵を借り受け酒造りを再開。同年10月には、前述の東洋酒造の建物、設備等を法人ごと買取り、鈴木酒造長井蔵として、12月に当地から初出荷を果たします。消防団員だった鈴木専務は、津波で仲間を失い、その後ばらばらになった仲間たちや漁師の皆さんに飲んでもらいたいと磐城壽を送り出したそうです。再興にあたっては、地元の山形銀行から融資を受け、大変お世話になったと感謝されていました。
 事業再興当初は、在庫積み上げのため1升瓶換算で年間7.5万本を製造していましたが、現在は在庫も積みあがったので5万本程度の製造ペースとのこと。山形県内向けの「一生幸福」(旧東洋酒造の銘柄)、福島県向けの「磐城壽」、その他が各々1/3の割合だそうです。福島県向けのうち、2~3割が浪江町の客向けの販売で、日常的に飲酒されているわけではないが、節目節目で相当量を消費してもらっているとのことです。
 酵母こそ同じものですが、酒米も変わり、水も変わったため以前の「磐城壽」とは異なる味になっているようです。鈴木専務は「昔の磐城壽には拘っていない。飲む人に何か温かいものを感じてもらえれば、それでいいと思っている」と語られます。
 また、長井蔵では、震災避難者が育てた米で、避難者に手伝ってもらい仕込んだ純米醸造酒「甦る」を震災2年目にあたる3月11日に発売しました。この酒は、長井市のNPO法人レインボープラン市民農場が生ごみを堆肥化して栽培したコメを使ったもので、東洋酒造との契約で、この取組みへの協力も引き継ぐことになっていたのだそうです。

写真3

 酒蔵を見せていただきましたが、醸造用タンクは石巻市の酒造会社から譲り受けたもので、容量は小さいのですが、少量の仕込みと販売を順次行っていくことで従業員を通年雇用することができる。また、多くの在庫を製品で持つと場所を取るが、酒米で保管すれば場所も取らず、必要に応じて仕込みと販売をしていけばその都度資金化できるので好都合な面もあると鈴木専務は語られます。
 いずれは浪江町でまた酒造りをやりたいそうです。「戻れる機会が来たら、井戸を掘り、検査を行い、生産者としてしっかりと情報開示しながらやっていきたい。浪江町に約800あった事業者のうち再興しているのは100程度で、そのうち1/3が除染の仕事。地元で酒造りすると言い続けないと、事業を再興する人がいなくなってしまう」「自分は消防団に所属していたため、一昨日も地元で、県警との合同捜索に参加した。友人の漁師もいずれは漁に出るという気持ちを無くしたくないと言っていた。今は地元のために、やれることを一つずつやっていくしかないと考えている」との言葉には長年地元に愛されてきた酒蔵の跡取りとしての強い責任感を感じます。「磐城壽」を無性に飲みたくなりました。
 さて、福島県川俣町は明治、大正、昭和の初期にかけて全国有数の絹織物の産地として発展し、「川俣シルク」としてスカーフ、ハンカチなどが横浜港から世界に輸出され、川俣には大量の外貨が入ってきました。日本銀行の出張所が東北では福島に初めて開設された所以です。その後の国産絹織物の衰退とともに、同町の事業者数も往時の約1/12(=20社)まで縮小しました。丹後、京都では和装の表地に使われる「重め」、北陸、東北では裏地に使われる「軽め(薄め)」を特徴とするそうです。
 川俣町にある齋栄織物(株)は、生き残りをかけて他に負けない特化した品質づくり(高付加価値化)を目標に取り組んできた結果、髪の毛の太さ(約50デニール)の約6分の1(8デニール)という超極細絹糸「フェアリー・フェザー(妖精の羽)」を2008年に開発します。単に世界一薄い絹織物というだけでなく、機械による量産化を成功させた技術が高く評価され、2012年2月の「ものづくり日本大賞」で最優秀賞である内閣総理大臣賞を受賞(東北初)しました。

写真4

 同社取締役社長の齋藤泰行氏のお話では、開発にあたっては、平成20年度の経済産業省の地域資源活用支援事業を活用するなど国の後ろ盾があったからこそ受賞に結び付いたと感謝の意を表しておられました。フェアリー・フェザーの商品化については、特にウェディングドレスは通常7~8kgあるところ、最近ではダンスが踊れるくらい薄くて軽いものが好まれるということで、デザイナーの桂由美さんのところで使っていただき、完成品は中国のオリンピックメダリストが着用し日本各地でPRしていただいたとのことです。
 震災では建物・機械等の被害を受けたことから、同業者の方々とともにグループ補助金の採択を受け、修復に取り組んでおられます。同社は川俣町に所在し、原発事故の避難区域からは外れているものの、同町内には計画的避難区域に指定された地区もあり、やはり風評被害はあったそうですが、震災後いち早くニューヨーク、パリ、上海など海外で展示会を開催し福島の安全性をアピールしてきたことと、同時に今般のフェアリー・フェザーを発信できていることから、最近の業況は良化してきているとのことでした。

写真5

 また本年のNHK大河ドラマ「八重の桜」で使用する主人公用のドレスとして、昨年同志社大学(被服学科)に要請し復元してもらったそうです。齋藤社長は、今後、国内外を問わずフェアリー・フェザーを広くアピールして県産品の復興につなげていきたいとの意気込みを語られていました。福島の復興を心から祈ります。

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