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東北再出発応援日記バックナンバー

北村東北財務局長

 東北財務局長の北村です。
 これから多くの方の声をお聞きし、試行錯誤しながらも我々の役割、我々にできることは何かをたえず考えながら全力で取り組んで参ります。

2013.4.22

 東北には豊かな自然に囲まれた人々の生活があり、そうした生活の中から自然の恵みを享受した工芸品などを生み出してきました。漆器などはその典型です。南蛮貿易華やかなりし頃は、英語で磁器をchina、漆器をjapanと呼んでいたことからも分かるように、欧米では漆器は日本の特産品と見做されています。
 全国各地に漆器の産地がありますが、その原料となる漆(うるし)の大半が今や中国からの輸入に頼っているという事実をご存知でしょうか。林野庁資料(平成22年度特用林産物需給動態調査)によれば、国内での漆消費量(55,671kg)のうち93.5%が中国産であり、国内産は3%弱という実態にあります。そのわずかな国内産の74%を占めているのが、岩手県二戸地方の「浄法寺漆」です。

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 漆の製造(漆掻き)は、苗木を植栽後、10~15年で可能となりますが、1本の木からわずかに牛乳瓶一本分(約200ml)しか採れないという手間暇のかかるものです。また漆の品質は採取方法、漆の植生状況、天候など複合的な要素で差が出るらしく、全国で漆掻き職人が激減している事情が理解できます。
 浄法寺漆は、中国産に比べかなり価格が高い(中国産の5倍程度)のですが、伸びがよく刷毛目が出ない、ウルシオール含有量が高い、硬化した塗膜に強度・耐久性があるなどの品質上の長所があります。従って、品質に対する評価の定着=ブランド化、差別化が不可欠です。岩手県と二戸市が共同で浄法寺漆認証制度を創設したのもそのためです。
 多くが植物性資材からできている日本の文化財は、これを後世に伝えていくためには修理・修復が欠かせません。浄法寺漆は、岩手平泉・中尊寺金色堂や京都・鹿苑寺金閣、日光東照宮などの世界遺産、国宝、重要文化財等の保護に使用されているほか、欧州の博物館・美術館に収蔵されている江戸時代の輸出漆器の修復などでも質の高い浄法寺漆に対するニーズはあるそうですが、それだけでは地域産業としての存続を確保するに足る需要量とは言えないようです。
 (株)浄法寺漆産業社長の松沢卓生氏は岩手県浄法寺漆生産組合(漆掻き職人20名が所属)の事務局長も兼ねておられますが、元は岩手県の職員でした。県二戸地方振興局で漆を担当してから浄法寺漆にほれ込み、地元の産業振興につなげたいとの思いから、平成21年に県を退職して、浄法寺漆産業を開業されます。

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 椀や皿などの漆器に加え、高級感を出したネームプレートやチューブ入り漆の販売を行っているほか、JETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)の支援を受け、海外の展示会に積極的に参加し、浄法寺漆(精製漆による付加価値化)や浄法寺漆器の販路拡大に努め、これまでにスイスの高級万年筆メーカー・カランダッシュとの取引や中国への漆器の輸出等の実績を着実に重ねてきました。2011(平成23)年度にはその活動に対し、グッドデザイン賞特別賞(中小企業庁長官賞)を受賞します。同賞審査委員による評価コメントを以下に紹介します。
 【かって日本の代名詞でもあった漆。漆掻き職人が漆を採る光景は戦後まで日本のあちこちで見られた。しかし外国産や樹脂漆の台頭でその需要は極端に減り危機的状況である。コストのために失われる素材、そこには日本が本来持っていた大切な文化が含まれている。伝統工法そのままに、漆産地日本一の岩手から果敢にその継続に挑戦する姿勢に敬意を表する。】
 また当社は2013年1月には、盛岡信用金庫などが設立した「もりおか起業ファンド」の第1号投資先となりました。漆は、林業でもあり農業でもあり、文化財や工業的な関係もあるなど、行政でも担当する部署がはっきりせず、業界団体もないそうです。ゆえに日本で漆を育てようという動きになっていないのが課題と松沢氏は語ります。厳しい環境ではありますが、逆にユニークな存在であるため強みになる可能性もあると考えておられるようです。かけがえのない地域資源としての漆文化を日本中に、そして世界に発信して欲しい。松沢氏の挑戦に心からエールを送ります。

 東北の伝統的工芸品として有名なのが、樺(かば)細工です。日本の樹である桜(ヤマザクラ)の樹皮を使った日本固有の工芸品です。秋田県仙北市の角館は、みちのくの小京都と呼ばれる武家屋敷の残る美しい町ですが、桜の町でもある角館にしだれ桜が最初に植えられたのはおよそ350年前。当主佐竹北家に京都の公家から嫁入りをされたお姫様の嫁入り道具にあった3本の苗木が始まりだったとか。京都の文化を得た佐竹北家は、その後武道、文学、医学、美術、農業、商工業と領内の多くの分野を洗練させていきますが、その中でこの樺細工も育まれます。一説によると江戸時代中期に佐竹北家の武士が県北部の阿仁地方の神主が有していた技術を伝えたことが始まりといわれています。樺細工の魅力はヤマザクラの樹皮の美しさです。決して華美な美しさではありませんが、武士の手工芸品らしく奥ゆかしい佇まいを感じます。武士に見出され、印籠、タバコ入れ、茶筒と時代とともに姿を変えながら発展してきたようです。

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 角館にある(有)冨岡商店は、そうした樺細工の製造販売を手掛ける一社です。武家屋敷通りの小路にある当社のショップで、代表取締役の冨岡浩樹氏にお話をお伺いしました。樺細工の売上は3~5月期のギフト需要に左右されるとのことで、東日本大震災によりその年は大きく落ち込んだそうですが、昨年は回復したとのことでした。今後はインターネット販売にも力を入れたいとのことで、売れ筋は茶筒のようなオーソドックスなものだそうですが、新奇なものも手掛けないと注目されないとの思いもあります。
 樺細工は、樹皮採取業者、流通業者、製造職人、販売業者と完全分業制になっているようで、すべてを一貫して手がけた業者でうまくいった例はないとのことでした。樺細工は全て職人による手作業で作成されます。角館近辺には約90軒ほどの職人がいて、当社はそのうち40軒と外注契約をしています。樹皮の産地は全国各地にあり、当社は主に関西の業者から仕入れているとのこと。使用する樹皮は樹齢30年以上のもので、一般的には40~50年のもの、高級なものは60~70年のものだそうです。採取した樹皮は2~3年寝かせることで水分を飛ばした後に問屋から出荷されるのだとか。樹皮は昔は蔵で何年も保存できたそうですが、現代の倉庫は過乾燥になりがちで、その場合お湯で戻すのだそうです。

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 当社は海外展開も進めています。経済産業省の補助金を活用して、24年2月にフランクフルトで開催された国際見本市に初めて出店。一般的には3年は声がかからないと言われる中で、幸運にもクリスチャン・ディオール社の目に留まります。現在、ディオール本店においてディオールのロゴ入りで桜皮と秋田杉のトレイ(kasanegasane)が販売されているなど、ディオールでの取扱商品は4アイテム。24年秋に追加オーダーされ、今後納品するものを含めると11アイテムになる予定とのこと。
 冨岡氏は、「ヨーロッパでは文化あっての工芸品という理解があるし、異文化を受け入れる度量も感じる。パリで行ったプレゼンでは桜や武士など文化面をとっかかりに説明したら反応がよかった。樺細工もこの町の文化背景とともに広く世界に発信していきたい」と語られます。因みに、中国にも輸出していますが、北京では高級品がよく売れるとのことでした。
 現在、フランスの有名陶磁器メーカーとのコラボレーションを協議中だとか。先方も伝統的工芸品メーカーながら、常に新しいことをやらないと博物館行きになるとの危機感があるようです。
 当社のショップ「アート&クラフト香月(かづき)」(注:桜に月の幽玄な様を香月というそうです)を拝見しましたが、自社製品の樺細工のみならず、様々な種類のテーブルウェアやテキスタイルなどが並んでいます。違う素材のものが一緒に並ぶと樺細工の良さが引き立つのだそうです。ここでもコラボレーションが実践されていますが、冨岡氏の穏やかな語り口の中に「暮らしの中にもっと樺細工を取り入れてほしい」という樺細工への愛情を感じます。
 桜と武家屋敷と樺細工の醸し出す角館の文化をまるごと世界中の人々に知ってほしいと願わずにはいられません。

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