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東北再出発応援日記バックナンバー

北村東北財務局長
 東北財務局長の北村です。
 これから多くの方の声をお聞きし、試行錯誤しながらも我々の役割、我々にできることは何かをたえず考えながら全力で取り組んで参ります。

2012.11.30


 山形県の庄内地方は、古くから日本海沿岸地域や畿内との海運によって栄えてきましたが、近年は交通利便の向上によって内陸各都市との交流も多様なものとなっています。その中心となる酒田港は、東日本大震災の際に日本海側からの救急・支援物資の輸送拠点として活用されました。また、近年はリサイクルポートとしての機能も発揮しつつあります。
  (株)酒田港リサイクル産業センターは、平成18年に酒田市、山形県及び民間企業の共同出資により設立され、この地での海上物流を活用したリサイクル事業を担っています。具体的には、東北一円の建設発生土などの汚染土壌を処理してリサイクル原料として全国のセメント工場へ出荷するのですが、過去には東京スカイツリー建設現場からの土壌受入れもあったほか、最近では仙台市営地下鉄工事からの発生土も処理しているとのことです。仙台からそれを運んできたトラックには、帰りにセメント骨材となる処理済の砂を載せて運ぶことで被災地の復興工事にも資する物流の流れができています。目立たないながら東北の復興にも一役買っていることは「静脈産業」の面目躍如です。


 さて庄内地方には、これからの東北発展の可能性を感じさせる企業がいくつもあります。
 スパイバー(株)は、鶴岡市にある慶応義塾大学先端生命科学研究所発のベンチャー企業です。なんと「クモ(蜘蛛)糸」をベースとしたバイオ繊維の開発・事業化を目指しています。当社の社名「スパイバー(spiber)」は、「spider(クモ)」+「fiber(繊維)」から作られた造語です。
 

東北再出発応援日記11月30日:画像1
 クモが生成する牽引糸は、防弾チョッキに使用されているアラミド繊維や炭素繊維に匹敵する強靭性、ナイロンなどを上回る伸縮性、300℃を超える耐熱性を持っており、比重は1.2前後(炭素繊維が1.8程度)と非常に軽量です。こうしたクモ糸の性質は世界中の研究者の間でよく知られており、早くから「夢の繊維素材」と目されていたそうですが、クモは肉食で縄張り意識が強く大量に飼育することが難しいのだそうです。しかも一匹のクモが紡ぎだす糸は1種類ではなく、特性の異なる糸を7種類ほど使い分けているので、作為的に特定の糸を取り出すことも困難とのこと。例えば、私たちがよく見かけるクモの巣の縦糸と横糸は違う成分からできていて、性質も大きく異なり、縦糸は強度が強く、横糸は伸縮性が特徴だそうです。


東北再出発応援日記11月30日:画像2
 24歳の時に当社を立ち上げた代表取締役社長の関山和秀氏らがとった手法は、クモ糸の遺伝子(フィブロイン遺伝子)をクローニング(遺伝子を取り出すこと)し、それを微生物に組み込んで、クモ糸のタンパク質(フィブロイン)を発酵生産し、そこから繊維を精製するというもの。2004年に開始されたこのプロジェクトですが、2007年には会社を立ち上げ、翌2008年には、安定した人工クモ糸の長繊維を作ることに成功します。そのスピードには驚くばかりですが、「研究成果をはじめとする知的財産の所有を明確にするには早期に会社を設立することが不可欠」との判断だったとのことです。また関山氏によれば、クモ糸の人工合成にはコンピューターを使った遺伝子やタンパク質のデザインを始め、撚糸工学、微生物、発酵工学など多分野にわたる研究が必要で、そのことが実用化の障害になっていたそうですが、関山氏らはそれらを一元的に推進する研究開発体制をとることで世界中の競合者から抜きん出ることに成功します。
 
 関山社長のお話を伺っていると、スパイバーが目指しているのは単にクモ糸の人工合成を超えて、タンパク質を構成するアミノ酸の配列をデザインし、エンドユーザーが欲しい高機能な繊維を自在に作り出すことにあることが分かります。
 当社のようなバイオ関連の研究開発には多額の開発資金が必要です。当社も設立当初からベンチャー・キャピタル等からの資金調達を行う方針を固め、それを着実に実現させています。これはひとえに当社が目指す事業の大きな可能性とそれを組織化していく実践力に対する高い評価なのだと感じました。
 「クモの糸から地球の未来を提案します」という当社のコーポレート・メッセージは、脱石油化という潮流の中で、庄内から世界にはばたく企業の出現を感じさせ、無性に嬉しくなりました。

 山形県鶴岡市の(株)ウエノは、「ノイズフィルターコイル(雑音防止用コイル)」と呼ばれる、電子機器の誤作動の原因となる信号対策用の電子部品を製造している会社です。ノイズフィルターコイルは、エアコン、プラズマテレビ、冷蔵庫、パソコンなどの幅広い電子機器に使われています。デジタル技術の高度化に伴いノイズの発生要素が増え、コイル需要は急速に拡大しています。当社は、昭和57年の創業以来、リング形状の一般的なトロイダルコイルの巻き線業として、最初は2次下請け、次に1次下請け、そして平成10年に専業メーカーとなり、今や国内シェアがトップ(エアコンでは90%のシェア)となっています。

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 ものづくり企業に求められるのはどこでも「品質、納期、コスト」ですが、トロイダルコイル製造は手作業による巻き線が主流だったため、当社の上野隆一社長も競争力を高めるために安くて質の高い労働力を求めて、生産拠点を中国(大連市と東莞市)にシフトし人手を確保します。それでも中国との間では運送に時間がかかる上、品質のばらつきがどうしても残ります。加えて経済発展に伴い中国の人件費が高騰します。
 上野社長が辿り着いた結論は「機械化しかない」でした。しかし、どこにも自動巻き線機などはありません。莫大な開発費用と歳月を要しましたが、2007年に試験導入、翌年から24時間稼動に成功します。生産性は一気に30~40倍にまで高まったそうです。
 国(経済産業省)の補助金を活用して、自動生産装置の拡充を行い、三川事業所(山形県三川町)の生産規模を倍増させる計画だそうです。生産コストを低減させ、国内市場での競争力を高めることが目的です。
 当社で注目されるのは、若者を積極的に雇用しようとしていることです。正社員80名余り(パートを含めて120名)の会社が3年続けて年7~10名程度の新卒を採用しています。「最近は大企業ほどリスクをとろうとしなくなった。企業家は事業を拡大させることが務め。すぐには戦力にはならないが、若者を雇用し育てることで会社が成長し、地域経済を底上げする」と上野社長は語ります。人件費削減のしわ寄せを若者へ及ぼす動きが多い中、天晴れと快哉を叫びたくなります。
 最近、従来のコイルに比べ材料消費が約15%低減でき、高周波領域でのノイズ防止特性を高めた新型の四角型コイル(「ウエノコイル」)を開発し、取引先に提案しているそうですが、国内メーカーよりもいち早く韓国の世界的なメーカーが採用を決定したとのこと。「この韓国メーカーのエアコンにウエノコイルが使われていることを知れば、国内メーカーも必ず追随するはず」と自信を示しておられます。「この分野で世界一を目指す」と熱く語る上野社長に心からの声援を送りたいと思います。

東北再出発応援日記11月30日:画像5
  庄内に行く機会があれば必ず立ち寄りたいと考えていたのが、(株)平田牧場です。東京ミッドタウンをはじめ、東京都内の人気スポットに「とんかつと豚肉料理 平田牧場」の名前で直営店を出店しています。「平牧三元豚(ひらぼくさんげんとん)」などの高級ブランド豚肉を世に知らしめた当社は、農業の6次化のいわば元祖といっても過言ではないと思います。当社の創業者であり、現会長の新田嘉一氏が取引先スーパーからの値引き提案を拒絶して、スーパーとの取引を停止、現在の産直路線を歩み始めたのが1975年。今では年間約20万頭を出荷するまでになっています。


 平田牧場の養豚は、創業以来天然飼料のみで行ってきましたが、さらに15年程前からは庄内平野の休耕田を利用して飼料用米を作り、その米で食用豚を育てる「飼料用米プロジェクト」が進められています。新田嘉七社長によれば「世界のブランド豚であるスペインのイベリコ豚はドングリ、イタリアのパルマ豚はホエーを食べている。ともに地産地消。日本では輸入飼料に頼っているが、考えてみると米があるのではないかと思い至った」とのこと。転作助成金の減額により一時は生産農家が減少の一途をたどったそうですが、協力関係にある遊佐町が国から「食料自給率向上特区」の認定を得て、現在では1,500人近い生産者が参加しているようです。当社で飼育する平牧三元豚は約10%、平牧金華豚は約15%の飼料用米を混ぜた飼料を食べているとのこと。こうして育てられた「こめ育ち豚」はコストが多少増えるものの、オレイン酸が高く、リノール酸が低くなり、うまみが増すなどの肉質改善効果が確認されています。平田牧場のような減反田を活用した飼料用米の生産が広がっていけば、日本の穀物自給率の向上に資することにもなります。
 失礼ながら、国内で競合している他のブランド豚がありますかと尋ねたところ、「競合者と問われれば、(豚ではなく)牛」との、目の覚めるような答えが返ってきました。「牛よりおいしい豚」をとの一念から平牧三元豚、さらには平牧金華豚というブランド化に挑んできたそうです。
 東北は日本の農水畜産業の重要な拠点です。この地域の6次産業化のリーダーとして新田社長の益々の活躍を祈念したいと思います。
 

2012.11.22


 東日本大震災の被災地の中でも、福島県は地震、津波に加え、原発事故への対応を余儀なくされるという苛酷な環境にあります。

東北再出発応援日記11月22日:画像1
 大熊町は福島第一原子力発電所が所在する自治体であり、警戒区域にあたることから全住民が県内・県外へ避難している状況(県内72%、県外28%の割合)にあります。町の人口10,960人のうち、会津地方には3,064人の方が避難されておられ(10月31日現在)、会津若松市役所追手町第二庁舎には大熊町役場会津若松出張所が設置されています。鈴木副町長のお話では、当初の段階では4,000人を超える避難者がおられたそうですが、気候が穏やかないわき地方へ移られる方が増えているとのことです。


 出張所の2階のフロアには大熊中学校が開設されていて、148人の生徒が学校生活を送っています。なお、同じく小学校(児童数241人)が旧河東第三小学校に、幼稚園(園児数81人)が旧河東第一幼稚園にそれぞれ開設されています。出張所の建物(追手町第二庁舎)がもともと高校の校舎だったこともあり、2階のフロアは普通の中学校と変わらぬ雰囲気で、すれ違う生徒が皆「こんにちは」と元気な声で挨拶してくれる姿に安堵する思いがしました。
 大熊町では5年間は帰還しないことを決めていますが、その先もまだ見通しが立たない状況であり、避難者の困難な生活はまだまだ続きます。この地に学ぶ子供たちが引き続き元気に成長していって欲しいと切に願います。


 福島県は県内総生産構成比で見た製造業の割合が22.5%(平成21年度)と東北地方の中で最も高く、全国平均17.9%(同上)と比べても高い位置にあります。
 会津若松市にある会津富士加工(株)は、昭和42年の操業開始以来、半導体加工が主力事業でしたが、この分野ではリーマンショック以降の景気低迷や円高の影響で大手メーカーからの受注が激減しています。他方で、平成22年から半導体組立て用のクリーンルームを閉鎖型植物工場に転用して野菜(レタス)の生産・販売を開始して注目を集めています。

東北再出発応援日記11月22日:画像2
 植物工場は、農業の新しい形態として最近相次いで企業が参入しているようですが、当社の場合、高付加価値な野菜として、カリウム含有量が通常より少ないリーフレタスの水耕栽培に注力しています。低カリウムレタスは、カリウムの摂取量が制限されている腎臓病患者のニーズが高いようです。カリウムは野菜をゆでたり、しばらく水につけておくことでも減少するようですが、一緒にビタミンなど他の栄養素も減り、食感なども変わるため、そのまま食べたいと望む患者が少なくないとのことです。


 当社では、3年ほど前に社員の意見を踏まえ「野菜の嫌いな子供向けレタス」を作ることを目指しました。試行錯誤の末何とか開発・量産化に成功し、「あいづmido菜」というブランド名で大手スーパーやレストランへの納入が始まった頃、大震災が発生しました。当社取締役社長の松永茂氏は避難所での食べ物(例えばバナナ)が食べられない病人がいることに気づき、低カリウム野菜の栽培にも取り組むことを決意します。この分野での特許を持つ秋田県立大学の小川敦史准教授の協力を得て、更に当社としての改良を加え、カリウム含有量が通常のレタスの1/6~1/7程度の低カリウムレタスを栽培・量産化することに成功します。「ドクターベジタブル」という商品名のこの低カリウムレタスは、通常のレタスよりも熱に強く、甘くてシャキシャキとした食感で保存が利くため、通常のレタスの4倍程度の値段でも需要が期待できるようです。
 松永社長としては、今後当社としての生産能力の拡充を図ると共に、他社の既存工場でのクリーンルームの転用先としてフランチャイズ方式で広げ、安全・安心な低カリウムレタスの生産を拡大させていきたいとの意欲をお持ちのようです。今まで新鮮なレタスを食べることのできなかった多くの患者さんたちが思いっきりレタスを頬張る姿を想像すると、ドクターベジタブルの普及を願わずにはいられません。


 同じく会津若松市にある(株)坂本乙造商店は、会津地方の伝統工芸である漆工芸を保存や伝承という従来の概念にとどまることなく、最新の素材と技術に融合させた製品を生み出しています。

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   この地方特有の美しい「蔵」造りの社屋は、外観からは想像できないほどモダンな内部構造であり、当社のコンセプトを象徴しているようです。昭和に建て増した部分は震災で崩れてしまったそうですが、天保年間から受け継いできた蔵にはひび一つ入らなかったそうです。もともと電気関係の技術者だった坂本朝夫代表取締役社長は当社を引き継いだ時に、ひたすら同じものを作り続ける業界(組合)の現状にカルチャーショックを受けたとのことでした。欧米の有名ブランド企業との交流の中で、坂本社長は伝統的な分野と新しい分野のバランスをとりながら高付加価値の新たな工芸品を生み出している姿に感銘を受けます。

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 当社の持ち味は広い意味での「蒔絵」技術を、様々な企業とのコラボレーションによるモノづくりに応用し、モダンで高級感あふれる製品として世に出すというものです。オーディオ用高級ヘッドホン、高級一眼レフカメラ、和装懐中時計、釣りマニア用の鮎竿、国産高級乗用車の内装ボードなどに始まり、米国大統領の就任記念にホワイトハウスに収めた有名ブランド万年筆、プロ野球選手の2,000本安打記念バットに至るまで、内外の驚くほど多様な製品に当社の技術が活かされています。「今でこそ様々な有名企業さんとのお付き合いがあるが、最初は当社ではこういう技術がありますと知ってもらうべく、ありとあらゆる見本市イベントに顔を出した」そうです。 

 大手企業とのコラボのために東京に進出することは考えなかったかと聞いてみたところ、「東京は情報量も多いがノイズも多い。地方はIT時代で情報も手に入れやすくなったことに加えノイズが圧倒的に少ない」と語る坂本社長には、会津を拠点としながらグローバルに通用するモノづくりを手がける自信と余裕が感じられます。地域にある伝統工芸の存続・発展の可能性を考える上でも、当社のような世界に注目される高付加価値なモノづくり企業から学ぶところは大きいと感じました。


 会津地方は福島第一原発から100km程も離れており(会津若松市と仙台市は原発からほぼ等距離)、放射線量も低いにもかかわらず、風評被害から観光は大きな打撃を被っています。特に、教育旅行の落ち込みは激しく、4月~12月初旬のシーズンに県外から教育旅行で当地に来訪した学校数は平成22年には841校であったものが、23年度は100校に激減し、24年度も多少回復したとはいえ11月10日現在でまだ214校にとどまっています。
 会津には、明治維新の激動の歴史を物語る鶴ヶ城や飯盛山などの名所・旧跡や磐梯山や猪苗代湖などの山紫水明の自然、伝統工芸、昔からの郷土料理と喜多方ラーメンやソースカツ丼などがミックスされた食文化など教育旅行の適地として認められてきた魅力があります。それが風評によって損なわれていることは悲しむべきことです。
 来年のNHK大河ドラマ「八重の桜」は、動乱の幕末から明治を生きた当地出身の女性、新島八重を描きます。地元は観光の起爆剤にと大いに期待しています。皆さん、この機会に是非会津を訪れ、その魅力を再発見してください。
 

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