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「がんばろう東北」レポートバックナンバー

岸本東北財務局長

2014.1.24 被災地の水産加工業の今後

1 はじめに

 三陸地方では、水産加工業が重要な産業であり、その再生が地域の復興の重要な鍵となると思われます。被災後、再開を希望する水産加工場の約8割が復旧し、事業を再開されましたが、売上は、被災前の水準になかなか戻らないと聞きます。
 その原因を伺うと、1.販路喪失、2.人手不足、3.水揚げ不足等の課題を上げる方が多いようです。これらの課題について、先進的な取組みをされている企業から話を伺い、我々なりの理解をまとめてみました。
 お忙しい中時間を割いてくださった、仙台市の株式会社仙台水産、石巻市の桃浦かき生産者合同会社、山徳平塚水産株式会社、気仙沼市の株式会社かわむら、株式会社石渡商店、釜石市の小野食品株式会社、株式会社津田商店その他の皆様に厚くお礼申し上げます。

2 販路喪失への対応

(1)ビジネスモデルに応じた市場開拓

 震災で工場や事務所を失った企業は、当面、事業を休まざるを得ませんでした。その被災企業から商品を仕入れていたスーパーマーケット等は、棚を空けておくわけにはいかず、別の地域の企業から類似の商品を仕入れます。被災企業が復旧し、再開しても、一旦、取られた棚を取り戻すのは困難なことが多いと聞きます。
 比較的売上を回復しているのは、事業を維持するために何としても数か月内に再開しようと、早期の復旧に最優先で取り組んだ方のようです。休業が長くなるほど、販路回復の困難度が増します。
 さらに、早期に再開することのほかに着目すべき点は何かと見ると、売上を伸ばしている企業は、他の企業と同じような仕事をして、競争しようというのではなく、自分がどのようなビジネスモデルを追求するのかを明確に意識して、強みを生かした事業をされているように感じます。

(2)会員への定期的な通信販売

 人口の高齢化が進展していますが、ここに着目して、すぐに食べられる調理済みの魚のセットを、会員に定期的に届けるという通信販売で業績を伸ばしている企業の話を伺いました。ターゲットは、都市圏で1人又は夫婦で暮らしている比較的豊かな高齢者で、多少お金をかけても良いものを食べたい、しかし、自分で少量の材料を買って料理をする手間は省きたいというような方です。
 かつては、外食産業の業務用の食材等を販売していたそうですが、震災前から通信販売の可能性に着目し、新聞広告等を試みていました。震災で、既存の販路が減少する中で、駄目な事業は駄目と割り切って、伸びしろのある事業に経営資源を集中させたのが良かったということです。通信販売が順調に行く中で、顧客から評判を聞いて、品質を重視する百貨店やコンビニ、機内食業者等からも注文が入るようになり、以前とは異なった種類の業務用食材事業も伸びています。
 ただし、食材の使われ方や利用するシーンによって、通信販売の仕方は変わり、また、顧客の獲得方法も変わるので、独自の工夫が必要でした。主として新聞広告で顧客を獲得されたようですが、いろいろと試行錯誤があったようです。

(3)学校給食用の冷凍食品

 学校給食用の冷凍食品で売上を伸ばしている企業の話も伺いました。
 少子化が進んでいますが、他方で各自治体の調理師も減っているので、温めればすぐに食べられる冷凍食品が重宝がられるようになってきているそうです。また、米飯給食が増えるにつれて、魚のおかずへの需要が増えています。
 一方で、学校給食の分野では、販路を失った水産加工業者が多数参入し、過当競争が生じて、値崩れが起きているという見方もあるようです。
 しかし、学校給食は、安全安心であることが第一に求められ、国産材料を用いて、添加物やアレルギー物質にも配慮する必要があります。欠品は許されず、魚の場合これは難しいことです。栄養管理上、毎回、残飯率が計測されており、子供が食べ残さないような味付けにすることも求められます。このように、独特の技術やノウハウが要求されるので、簡単に新規参入ができるものではないということです。
 学校給食用の食材は、各学校や学校給食センターの栄養士の信頼を得て、契約先として採用してもらうことで販売が行われます。そこで、この企業は、全国で地元の方を営業担当者として採用し、毎日、営業活動をさせています。このような営業方法は、中小企業では珍しいということで、これも大いに強みになっています。
 震災後は、特に、西日本において風評による取引の減少があり、現在でもおよそ三陸地方の企業とは契約しないことに決定しているという自治体もまだあることはあるが、営業担当者が毎日検査結果を見せて信頼関係を回復していった結果、かなりの地域で取引を回復することができたそうです。

(4)細かなニーズに対応した商品の安定的な供給

 イクラ、ワカメ、コンブ等の原料を産地、部位、等級等で何百種類にも細かく分類して管理し、鮮度にこだわって製造した加工品を提供している会社の話を伺いました。大規模な設備投資を行い、大量の原料を扱うことで、大きさ、柔らかさ等について、需要に応じた品質や形態の商品を安定的に供給することができます。衛生管理について、HACCP等の最新の方式を採用していますが、徹底した衛生管理を行うことは、各企業に共通して当然の前提となっているようです。

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(5)特別な食材の高度な加工

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 フカヒレは、高級食材として有名です。元々、地元で採れるヨシキリザメというサメのヒレは、繊維が細く、中国人の好む素材ではありません。しかし、話を伺った企業では、小さいヒレの形を丸ごと生かして、見た目をよくすることができることに着目し、早くから工夫を重ねて、和食に活用するようにして価値を高めました。特に、フカヒレの調理に慣れていない和食の料理人でも味付けだけすれば使えるように予め臭みを取る技術を開発したそうです。フカヒレは、加工が難しいが、加工技術を向上させることで、付加価値を高める余地が大きいということです。

(6)卸売業者と協力した生産、加工、販売の一体的運営

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 牡蠣の産地で、従来の共同出荷に代えて、水産業復興特区の指定を生かして、生産、加工、販売を一体化的に行おうという会社ができました。地元の漁業者十数名が、水産物の卸売業者の支援を得て、合同会社を設立し、牡蠣の養殖販売に取り組んでいます。現在の水産業・水産加工業の課題として、生産者から消費者までの流通が多段階に分かれていることから、企業は消費者のニーズに感度が低くなり、消費者の魚離れが進んでいるということがあげられるといいます。この企業では、生産した牡蠣を独自のブランド名で直接に小売店に売ることを重視しています。
 販路の確保は、漁業者だけでは、なかなか困難な面があろうと思われます。だからこそ、これまで多段階の流通システムが形成されてきたのでしょう。この企業では、支援している卸売業者の協力が非常に役立っているということです。

(7)地域での共同化

 先に復興を遂げた企業が、リーダーとなって地域をまとめ、組合を作って、震災前にはできなかったことをやって全員で生き残ろうという取組みをしている例があります。震災前は、各企業があまりお互いを知らなかったが、企業の大小に関わらず復興できるように、共同で冷蔵庫等の施設を利用し製造コストを抑制するとともに、販路の拡大のために共同で統一ブランドを立ち上げるということです。大手商社の支援を得て、従来できなかったような大手のスーパーマーケットとの取引も可能になるそうです。
 また、東京の大田区の町工場のネットワークに見習って、地域の水産加工の企業がそれぞれ得意な分野に応じて段階的に分業して、地域全体で商品を完成させる仕組みを作ろうという構想を持つ企業もあります。

3 人手不足への対応

 水産加工業は、工場で魚介類を加工し調理する過程で手作業に頼る部分が大きく、地元の方の就労や外国人の研修生の貢献に多く依存していたようです。しかし、震災で工場が操業できなくなった際、やむをえず従業員を解雇したり、研修生が帰国したりし、その後、操業再開に至っても必要な人員の確保に苦労しているという例が多いようです。いわゆるきつい職場で元来求人が難しい上に、かつて雇用していた人が内陸の仮設住宅に入居して遠方になってしまったり、復興需要が強まる中で一般的に雇用事情が求人側に厳しくなったりしているためです。
 多くの人を雇用していても、近隣では人が集まらず、バスで送迎しているという企業もあります。外国人研修生も戻ってきているようですが、全体として人手不足の問題があることは、関係者に共通の認識です。
 こういった中、自治体の支援もあって、改善活動に取り組まれている例があります。機械化できるところは機械化し、しかし、それには限界があるので、自動車会社の方の指導も得て、改善活動を取り入れ、少ない人数でより多くのものを作るということです。生産性の向上を図ることは、直接に人手不足を補う効果があるとともに、雇用確保のための賃金引上げをやりやすくするという効果もあると思われます。

4 水揚げ不足への対応

 原料となる魚の水揚げが不足することが問題だという話も聞きました。水揚げの数量は、岩手県、宮城県では、震災前の約7割となっています。
 例えば、今年はサケはよく採れたけれども、サンマがあまり採れなかったといったことがありますが、自然を相手にしていることによる原料確保の不安定は、水産業に特有の課題で、それぞれに対策が講じられてきていることと思います。
 他方、3県で260漁港が被災しましたが、陸揚げ岸壁の状況をみると、2割程度が全延長回復、6割程度が部分的回復ということです。施設の復旧が進むにつれて、施設面での障害は減少していくことが期待されます。

5 おわりに  外部のコンサルティングの活用

 震災から3年になろうとしており、まだ売上が回復せず、3期続けて赤字というような企業では、このままでは問題だという危機感が広がってきているという話を伺いました。企業の抱える課題は、企業ごとに様々で、経営者でも自社の課題を正しく認識しているとは限らないそうです。外部の専門家の助力を得て、自社にどのような課題があるのかを明らかにし、その上で、その課題に適した専門家の支援で、課題の解決を図ることは、経営改善にとって、非常に有益であるということです。その企業も、独立行政法人中小企業基盤整備機構の支援を得て、消費財メーカーの元幹部職員の派遣を受けたことがあり、非常に有益だったということです。
 各企業の経営者の方が高い問題意識を持って、真剣に取り組んでいらっしゃることは当然ですが、このような指摘も大変参考になるところです。

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